私の体は音楽と映画と旅でできている

タイトルのまんまのブログ。中年主婦が映画、音楽、旅行について思いつくままに書いてます。

バシュランギおじさんと小さな迷子

バシュランギおじさんと小さな迷子

カシミール地方の村に住む少女シャヒーダは突然の事故で口がきけなくなってしまう。
両親は何でも願いが叶うというイスラム寺院を目指し、インドに向かうが、シャヒーダは帰り道で停車した電車から降りて、一人取り残されてしまう。

そんなシャヒーダーが出会ったのはヒンドゥー教ハヌマーン神の熱心な信者パワンだった。
バカがつくぐらいお人良しのパワンはその性格ゆえか、成功とは無縁の人生を送っており、恩師の娘である恋人との結婚の条件として、半年で家の頭金を貯める事を要求され、資金を貯めるために必死で働いていた。

彼は一時的にシャヒーダーを保護するが、彼女がパキスタン人だと知れるとイスラム教徒嫌いの恩師に、大使館に追い払えと言われ、大使館に連れていくも、大使館は身分がわかるものを出せと聴く耳持たず、おまけに暴動が発生して大使館は1か月閉鎖。
パワンは自力でパキスタンまでシャヒーダを送り届ける事を決意。
パキスタンまで想像を絶する過酷な冒険旅行が始まった。


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まず、この少女が口が聞けないというのが最大のハンディ。
状況を伝える事もできなければ、住んでいた場所を伝える事もできない。もし、口が聞けたら、自分の住んでいるところはどういう場所かなど情景くらい伝える事はできるはずだし、就学年齢に達していて文字を書けたらやはり筆談で伝える事ができたはずです。

少女はその両方もできないという事で周囲の人間は途方に暮れるわけですが、彼女が故郷だと主張する似たスイスの写真など断片的な手がかりをもとに、スパイ扱いされながらも何とか警察の目を反らし、目的地に近づいていく過程がとてもスリリングに、時にユーモラスに描かれています。

もう一つのハンディはインドとパキスタン犬猿の仲だという事。

もしも外国で子供が迷子になったら? 
それは親にとって最大の恐怖でしょう。
その上、迷子になったのはいわば敵地ともいえる場所。母親は生きた心地がしなかったでしょう。

普通は大使館に写真を送るなりして、探してもらうでしょう。
ネットを活用するのもいいかもしれません。
また、インド側も警察に預けるか、何とか説得して大使館に引き取ってもらうのが筋というものでしょう。
パスポートがないから引き取れないなんて、普通子供のパスポートは親が持つもので迷子になったら持ってるはずないじゃないですか。

普通、あんな可愛い女の子が一人でウロウロしてたら誘拐されて売春宿にでも売り飛ばされるのが関の山。

実際、旅行会社の口車に乗って、シャヒーダが売り飛ばされるところでしたし、ほんと人を疑わなさ過ぎるのも罪になる場合もあるというのがわからんのかと。
振り込め詐欺なんかその典型で、パワンなんてすぐに騙されそう。
正直なだけであのインドを生きていけるのか危惧してしまいます。

だが、これはあくまでもファンタジー
愛によってパキスタンとインドの憎しみが氷解してくれればという願いを込めて作られた作品なんですね。
何といっても素晴らしいのがあのパキスタンの記者。彼がいなければパワンとシャヒーダは目的地にたどり着けなかったでしょう

この映画で、ニュースで時々耳にするカシミール地方がどういうところか初めて知りました。
インドやパキスタンにもこんなスイスみたいに綺麗なところがあるんだ~と感心しましたが、その美しい土地が紛争の舞台になっているのは悲しい限りですね。
改めてカシミール紛争について調べてみるきっかけになりました。

やはりここで見え隠れするのがかつての統治国である英国。

独立直後にインドとパキスタンは分離しましたが、カシミール地方はインド、パキスタン、中国に国境を接していて互いが領有権を主張。
インドの場合、英国が分断統治して、互いをいがみ合わせ、矛先が自分たちに向いてこないようにしていましたが、カシミール地方でも住民の多くががイスラム教徒だったのに対し、藩王ヒンドゥー教徒を据えたことから、そのほとんどがインドに帰属することで分断されてしまったのだそうです。
このあたりはクルド自治区と似てますが、本来カシミール自治州とでもするべきなんですよね。

上でも書いたように、この映画はあくまで理想。
この映画を鵜呑みにして、インド人やパキスタン人が人情に溢れたいい人ばかりだと勘違いするおめでたい人間はまあそんなにいないと思いますが、まれに危機感ゼロの平和ボケ日本人もいて、インドが実はレイプ大国だと知らずにのこのこついていって、1か月監禁され性ドレイ扱いされていた日本人女性のニュースは記憶に新しいところ。
日本のマスコミはもっとこういう事を報道すべき。